女性社会教育原稿

「渥美どろんこ村」は、愛知県東南に位置する渥美半島にあります。
ヤギやウサギ・ニワトリなどが放し飼いになっている「体験ひろば」、「宿泊棟」と「食堂」があります。
看板は「畑のケーキやさん」「畑の食卓ファーマーズ・キッチン」そして「農業体験施設・どろんこ村」と3つかかっています。
.この看板があらわすように、どろんこ村では自家製のタマゴやミルクで焼いたケーキを販売しています。
やはり自家製の肉やタマゴ、米や野菜を使った食事のできる予約制の農村レストランでもあります。
そして、年間を通じて農業体験者の受け入れを行っています。

家族連れやグループ旅行、大学のゼミ合宿、子ども会、夏休みには小学生たちのためのファームステイ、最近では、日帰りですが高校生の学習体験で80名の生徒もやってきました。
人数に関わらず、宿泊も食事も一日に基本的に一組しか受け入れません。
というより、受け入れられないのです!
「どろんこ村」を運営するのは、私たち夫婦と母、研修生がいるだけの小さな農家だからです。
菊やメロンなどの施設園芸の農家が多い渥美半島で、農薬や化学肥料にたよらずに米や露地野菜をつくり、ヤギを飼い、
1000羽のニワトリを放し飼いにしている我が家はそれだけでもだいぶ風変わりな農家といえます。

どろんこ村が宿泊型の農業体験施設としてスタートしたのは、1997年7月のことです。
渥美と名古屋でそれぞれ暮らしながら別居結婚していた私たちが渥美でいっしょに生活し始めてからちょうど一年経ったときでした。
農家としては、@地域内循環型の農業にこだわりたい A自給自足をめざしたい、という強い思いはありました。
地元の人たちに対しては、楽しみながら農業がやれる方法があるのだということを知らせたい。
また、田舎に住んでいればあたりまえのことが、ほんとうは価値あるものだということにも気づいてほしいと思いました。
都会の人たちに対しては、農業の現場にふれてもらうことによって、自然とともに働く農業の楽しさやゆったり流れる時間の豊かさを、自給自足の農家の食卓を通じて食べ物のほんとうのおいしさなどを感じてもらえたらと思ったのです。
訪れる人を選ぶわけではありませんが、できれば、これからの時代を担う若い世代の人たちがたくさんやってきてくれることを願ってのスタートでした。
それから三年経った今年の4月には畑のケーキやさんの看板も掲げました。
しかし、農業をやりながらこれだけのことを同時進行していくのはなかなか大変なことです。

生き物を飼っている農家では家族みんなが一斉に休むことはまずできません。
毎日何があっても欠かすことのできないのは、ヤギやニワトリたちの餌やりや乳搾り、タマゴひろいなどです。
ひろったタマゴは箱につめて宅急便で送ります。
畑では抜いても抜いても伸びてくる草との戦いです。
収穫した野菜は野菜
BOXにつめて送ったり、仲間といっしょにつくった産直センターを通じて出荷します。
そんな農家としての生活のなかに、さまざまな人たちを受け入れます。
それはとても刺激的で楽しいことではありますけれど、時にはしんどいときもあります。
ましてや、家族にとってはなおさらでしょう。
都会の人たちを受け入れ始めた頃、我が家の娘はまだ保育園に通っていましたが、来客に母親をとられることに抗議して、『普通のうちにもどって!』とよく泣きました。
しかし、一般的な家庭と比べるとだいぶ変わっている我が家の家庭環境については、彼女は小学校2年生になる現在にいたるまで、何も言ったことはありません。

三人の子どもとともに再婚した私たちにとって、家族とは血のつながりでないことは確かです。
その後に生まれた娘にとって、一緒に暮らす両親とおばあちゃん、おにいちゃんはもちろんのこと、都会で生活しているおにいちゃんやおねいちゃんも大事な家族です。
もちろんいっしょに暮らしている犬のジロやプリン、ヤギのメリー、アヒルやガチョウ、ウサギたちも家族の一員です。
農業研修やボランティアで滞在する若者たちも年の離れた兄や姉のようです。
要するに家族と他人との境目がとても緩やかなのです。
また、日常生活のなかで夫と妻がそれぞれ別の姓を名乗る私たちにとって同姓であることが、家族のきずなをつよめるなどとは思えないのです。
当然、娘も父親と姓が違うことをあたりまえのことと感じているようです。
何より私たちは、自分たちだけで子どもを育てようなどとは思ってないのです。
関わった人たちや自然環境が、子どもを育てます。
さらに、私たちがたずさわる農業そのものに子どもを育てる教育的力があると思っています。

農業体験施設として、人を受け入れ初めて三年。
たくさんの子どもたちが体験にやってきました。
子どもたちの生き生きした反応に励まされて、どろんこ村では新たな取り組みを準備中です。
どろんこ村の周辺でも施設園芸が多い中、田畑がたくさん余っています。
里山もあります。
ため池もあります。
海もあります。
今まで受け継がれてきたこの豊かな自然環境をいかし、地域も巻き込みながら『田んぼの学校』を来年春開校します。
田んぼを生産の場としてだけでなく、子どもたちの遊びと学習の場として生かしていきたいと考えています。
自給自足をめざす農家として小さな出会いを大切にしながら、この『田んぼの学校』では学校単位、クラス単位の大勢の子どもたちを受け入れていきます。
水の流れ、虫たちや、植物たちにふれて遊びながら、子どもたちは自分も自然の一員であるということを感じてくれることでしょう。
2000年の歴史をもつ田んぼはきっと、我が家の娘も含めた地域の子どもたちや都会の子どもたちの育ちの場になってくれるはずです。