(第40回社会教育研究全国集会資料)

  農業を通じて子どもたちに伝えたいこと』

渥美どろんこ村 小笠原 弘
渡部千美江


この夏、渥美どろんこ村では小学生のための農業体験教室『夏休みファ-ム・ステイinどろんこ村』を開設します。
昨年に引き続き今年のファーム・ステイのテーマは「農作業を体験することを通じて、自然のサイクル・人と人のつながり・自分と自分以外のものの“いのち”について考える」です。


農業を通じて夢を実現


どろんこ村のある渥美半島は、冬には冷たい季節風が吹くものの、温暖で一年中を通じて作物が育つ農業地帯です。

電照菊やメロンやトマトなどの施設園芸やキャベツなどの小品目・大量生産の農家がほとんどです。

この渥美半島で、仲間5人といっしょに農業体験施設『渥美どろんこ村』をスタートさせたのは1997年の夏でした。

都会の人たちに農業にふれてもらおう、自分たちも夢を持って楽しく農業を続けていこう、そしてそのことを通じて地域を変える力になろうというのが共通の思いであり、夢です。

現実には、我が家の農業経営=どろんこ村といった状態ですすんでいます。




畑仕事をしながら人を受け入れて


我が家は農薬や化学肥料をほとんど使わないで、3ヘクタールの畑に露地野菜、60アールの田んぼに米(古代米の赤米や黒米も)を作り畑で放し飼いにした1000羽の鶏のタマゴを拾い、ヤギの乳を搾るのが日課の、渥美半島にはめずらしい昔ながらの農家です。

その農家の生活を丸ごと体験してもらうために、手作りのゲストハウスと食堂があります。

自家製の米や野菜・タマゴや肉を使った料理やケーキが楽しめるようになっている食堂は、都会から訪れる人たちだけでなく、時には地元の人たちの食事会やお茶会の場にもなります。

しかし、畑仕事をしながら人を受け入れるというのは、楽しいけれどなかなか大変な毎日です。




学生たちとの出会い


いつかは子供たちのための農業学校のようなことをやりたいと思っていましたが、日々の仕事に追われる現状では夢のまた夢でしかありませんでした。
それがこんなに早く実現できたのは、日本福祉大学の早野ゼミの学生たちとの出会いがあったからです。

 どろんこ村がオープンした3年前の9月に2泊3日で農業体験にやってきて、稲刈りや冬野菜の種蒔きなどを手伝ってくれたのが早野ゼミ20名の学生たちでした。
農業にはそれまでまったく関心のなかった彼らが、どろんこ村で体験することによって、農業の厳しさや楽しさを感じただけでなく、生き方としての農業を自分の生き方とも重ね合わせて考えるようになっていくのがよくわかりました。

その後、新米を炊いての食事会、暮れの持ちつき大会と学生たちとの交流は続き、毎年夏には新たなゼミのメンバーが体験に訪れ、交流の輪はさらに広がっています。

ファーム・ステイの企画はこの学生たちとの交流の中から生まれました。

農業学校をやりたいという私たち夫婦の思いに「ボランティアとしていっしょにやりたい」と名乗りをあげてくれた学生たちに励まされるようにして、昨年の春、企画づくりが始まりました。




動物や植物のいのちをもらっていのちの循環


そして、昨年はじめてのとりくみとして、8月に3泊4日のコースを2クラス開設しました。
東京や名古屋などから、20名の小学生が参加しました。

ファーム・ステイの運営のしかたとして、スタッフで合意したことは「子どもの自主性を尊重しよう」でした。

体験メニューは用意するけれど、それはしなければならないことでもなければ、号令とともに一斉にやることでもない、あくまで子どもたちの選択に任せることにしました。
みんなと別行動をとる子がいても、それはここでは自然なことでした。
子どもたちは「自分で食べるものは自分でつくる」を基本に、ヤギの乳搾りや卵拾い、畑での堆肥まきやトラクター乗り、キャベツやブロッコリーの種蒔き、自分たちで収穫した野菜やつぶした鶏の肉を使っての食事づくり、アイスクリームやケーキづくりなど、盛りだくさんの体験をしました。

なかでも、鶏をつかまえての解体は、いのちを考えるうえでファームステイ中最もわかりやすい体験となりました。

子どもたちの目の前でそれをするかどうか、前日遅くまで話し合いました。
スタッフの中には「ショックが大きすぎるのでは?」「逆効果になるのでは?』と心配する声もありましたが、「見たくない子は見なくともよい。
しかし、肉を食べないというなら別だが、食べているのだから」ということで実行しました。

実際の子どもたちの反応はたくましく、最初のうちこそ「かわいそう」「こわい」と目をそむけていましたが、そのうちに真剣にこの解体作業に関わり始めました。
むしろ、大学生のスタッフのほうに最後までまともに見ることのできない者もいて、つぶしたての鶏の刺身をおいしそうにほおばる子どもたちと対称的でした。

人間が本来持っている生きるたくましさを、子どもたちのなかに見た思いでした。

畑に言って自分たちで収穫したナスやピーマンをきざみ、つぶした鶏肉でハンバーグを作り、拾ったタマゴでケーキを焼く。
それをおいしく食べることで、動物や植物のいのちをもらって生きていることを、子どもたちは理屈ではなく感じたのではないかと思います。

食べ物のおいしさもまた、若者たちをどろんこ村にひきつける大きな要因のようです。

 


生活の場での体験


このファーム・ステイが通常のキャンプと違うところは、農家の生産の場・生活の場に子どもたちを受け入れることです。

農業には教育的な要素がたくさんあります。
生活のなかにもまた、教育的要素がつまっています。

子どもたちは自分の日常生活から離れてファーム・ステイにやって来ますが、ここには私たち農家の日常生活があります。
おばあちゃんや小学生の娘や高校生の息子がいます。
若いスタッフや時には研修生もいます。
犬のジロやプリン・ヤギのメリー・ウサギやアヒル・ガチョウたちもここで暮らしています。

教科書を読んだり、教室のなかで学んだりすることに血を通わせるのは生きた体験ですが、ファーム・ステイではこの体験が生活の場で行われることに大きな意味があります。

 


人と人の循環


もうひとつこのファーム・ステイの特徴的なことをあげれば、指導者がいないことです。

子どもたちと寝起きをともにして体験をサポートするのは大学生のボランティアスタッフたちです。
彼らも子どもたちといっしょに体験をしながら、農業から学び、子どもたちから学びます。

海水浴やきもだめしなど遊ぶときは思いっきりいっしょに楽しんでいます。

ファーム・ステイ後、それぞれスタッフと子どもたちが連絡を取り合い、交流が続いているのも自然なことです。
ファーム・ステイが終わって、こどもたちはみんな「またくるから」といって言って帰っていきました。

その言葉どおり、昨年の参加者のほとんどが今年もまたやって来ます。

毎年ファーム・ステイを続けていけば、彼らのうち何人かはスタッフとしてどろんこ村に関わってくれることでしょう。
また、現在のスタッフたちが、結婚し、子どもを連れてどろんこ村を訪れる日が来るのもそう遠くないでしょう。



農業の可能性に挑戦して


農業にはたくさんの可能性があります。
だからこそ未来を担う子どもたちや若者たちに農業にふれてもらいたいと思うのです。

どろんこ村が大切にしている“自然の循環”も繰り返し訪れてもらうことによって、肌で感じられることでしょう。

どろんこ村は大きくなることを望みません。
渥美という地域に根ざして、農業の可能性に挑戦していきます。

そして、いろいろな地域にどろんこ村のようなところができることを願っています。